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映像四郎の百人斬り

映像四郎の百人斬り

「三池崇史」

「三池崇史★NIGHT」



 「三池崇史」の映画に、

 癒されていた時期がある。

 AVのごとく、映画を量産できる
 
 タフな監督だ。

 ストーリーの主軸から、外れた、

 傍流部分での、チープな変態人物たちに、

 どうしても、癒されてしまう。

 私にとって、「三池崇史」は、

 「チープ」かつ「アンダー」を肯定する

 映画の代名詞だ。

 ただ、ちょっと、暗い部分もある。



 私は、一回だけ、業務上で、

 「借金取り」をした。

 AV会社勤務時に、

 スタジオマンが、

 スタジオ代を、

 着服してしまったのだ。

 たかが、20万円。

 しかし、そのころ、会社は、火の車。

 オーナーには、報告できない。

 上司が、私に回収を命じた。

 単なる管理ミスで、

 何故、私が、そんな汚れ仕事まで、

 と思いつつも、

 なんか、楽しいかもとの軽い気持ちで、

 スタジオに、向かった。

 スタジオマン「穴橋氏」は、

 豪勢な洋館であるスタジオに、

 「快適だから」という理由で、

 住み込んでいるのだ。

 東京の夏に、冷房がないのは、

 厳しい。

 一度慣れると、熱帯夜には、

 戻れない。

 きっちり、回収できさえすれば、

 罪は、問わない、という。

 だけど、金のない人間から、

 どうやって、取ればいいんだ。

 単純な疑問も、浮かぶ。

 金の回収自体が、

 罪を問うことだし、

 でも、仕方ないし。

 基本的に、私は、

 ゆるい性格なので、

 人を急き立てることには、

 向かない。

 仕方ないので、

 一発、殴ろうと決意する。

 取立てモードを作りさえすれば、

 あとは、

 普通に話して、

 事態は、動くはずだ。

 もしもの場合、

 金融業者に、

 連行すればいいか、

 と考えた。

 逃げられても、

 困るし、

 返り討ちにあっても、

 困る。

 明日、行くといっておいたので、

 今は、油断しているはずだ。

 機材車を表通りに、置いて、

 あとは、歩きだ。

 車が、きたことを悟られてはいけない。

 暗がりの洋館に入る。

 居間には、

 テレビの前に、

 酒瓶が、山と積まれ、

 食い散らかした弁当の殻が、

 異臭を放っている。

 エロ本と、レンタルAVの山、

 しかも、「現場」が、終わったあとに、

 忘れていった「ローション」や、

 「下着」なども、散らばっている。

 それに、使用済みティッシュまで、

 散乱していたのだ。

 オナニーしてんじゃねーよ。

 頭に血がのぼるのと同時に、

 「穴橋氏」が、いないことで、

 屋敷内の不気味さが、急激に増す。

 部屋数が、多いのだ。

 地下から、2階、そして、

 屋根裏部屋まで、

 計10室以上はある。

 気配を殺して、一室一室、

 探しながら、階段を上がっていく。

 彼は、2階のメイク室に、

 全裸で、胎児のように、

 身体を丸めて、眠っていた。

 なんか、かわいい。

 オーナーに、言えば、

 金はチャラでも、解雇にすれば、

 済むんじゃないのかと、

 引き受けたことを、

 後悔した。

 しかし、ありえない。

 会社の施設で、

 オナニーして、

 全裸で、眠ってる社会人なんて、

 ありえない。

 電気をつけ、

 名前を呼び、

 起きたところで、

 顔を蹴った。

 メガネが、飛ぶ。

 人間は、丈夫にできている。

 2、3日後に、

 脳内出血で、

 死んだりしませんようにと祈る。

 心臓ばくばく。

 取り立てにきた旨と、

 即、金策に動くことを、

 伝える。

 彼の、財布から、

 運転免許証などの、

 身分証関係を全て、

 目の前で抜き取る。

 しかし、そんなもの、

 役には立たない。

 失効手続きを出せば済む。

 結局、お互いに、

 協力関係を結ばなくては、

 いつでも、逃げ出せるし、

 グズられたら、

 目的は、遂行できない。

 タバコをくわえさせ、

 火をつけてやる。

 穴橋氏の人柄は、

 ゆるくて、好きだったが、

 今回は、ゆるすぎた。

 ゆるゆる、なのだ。

 ただ、共通の目標を確認し、

 達成しなくてはいけない。
 
 人格を否定する気もなければ、

 人間的には、

 好意を持っている旨も伝える。

 激安な共同体が、

 瞬時に、結成された。

 服を、着させ、

 鍵を、没収し、

 機材車に、急がせる。

 彼は、すでに自己破産していた。

 キャバクラ嬢に、

 全て、貢いでたみたい。

 きゃー。

 アコムなどのまともな金融系からは、

 一切、借りれないという。

 たらい回しのカード地獄で、
 
 数百万ほどだが、

 すでに、踏み倒したあとだった。

 試しに、2、3軒、

 連れて行ったが、

 やはり、ダメだった。

 その際、缶コーヒーや、タバコを与えて、

 労をねぎらう。

 昨日まで、仲間だったのに、

 金って、怖い。

 売るものは、ないのか、と聞いても、

 ないと答える。

 確認のため、

 彼の部屋にいく。

 マンションの8階。

 テレビは、つかない。

 ステレオも、壊れてる。

 請求書の山が、床には、散らばり、

 全て、陽に焼けて、かなりの、長期間、

 部屋が、そのままの状態だったことを、

 物語っている。

 売れるものは、本当に何もない。

 ベッドの上も、

 色あせたチラシ類が、山盛りだ。

 一体、どこに、寝ていたんだろう。

 スタジオに、住みたくなるわけだ。

 それに反して、窓からは、

 西新宿の高層ビル群が、

 夜空に浮かび上がっている。

 殺風景な室内から見える、

 夜景群が、

 最悪な現実に対しての

 遠近感を狂わせる。

 どん底な室内と、豪勢な夜景。

 きっと、ビールが、おいしいはずだ。

 家賃も高い。

 引っ越したくたくても、

 引っ越す金がなかったそうだ。

 同情は、できても、

 穴埋めはしないと。

 「どうしたら、いいでしょう」

 私が、下手に、訊くと、

 「穴橋氏」は、急に頼もしく、語り始めた。

 「闇金」

 もう闇金しかないそうだ。

 そして、すでに、つまんでるそうだ。

 そういえば、「穴橋氏」あてに、

 最近、変な電話が、増えていた。

 だから、か。

 数万円ずつしか、

 借りれないという。

 しかも、一週間後には、倍になる。

 返せるわけないじゃん。

 上司に連絡するが、もちろん、GOだ。

 そんなハシタ金で、

 命を取られたりすることはないのだろうが、

 遠洋漁業に売られたりしちゃうのかなぁ、

 などと、心配してしまう。

 一軒目、新宿、二件目、渋谷、

 云々かんぬん。

 全て、「闇金」は、

 駅から、外れた、辺鄙な場所にあった。

 マンションの一室に、消えていく。

 待ち時間も、長い。

 電話がくる。

 私を、保証人にしようとしている。

 誰がなるか。

 切る。

 「穴橋氏」は、

 こちら側の要求金額以上の金を、

 借りてきた。

 生活資金だそうだ。

 金を返すときの「穴橋氏」の顔が、

 誇りに満ちている。

 彼に訊く。

 「これから、どうすんですか」

 キャバクラ通いで、

 自己破産した男だ。

 「どうにかします」



 それから、一年後、彼に、

 新宿の路上で、会った。

 タコツボと呼ばれるハンバに、

 送り込まれた彼は、

 右足を負傷し、

 しかも、保険もなしで、

 金ももらえず、

 拾ってきた、雑誌を路上販売していた。

 きくと、公園の屋台で、

 寝泊りしているらしい。

 だが、「穴橋氏」は、

 元気そうだった。

 確かに、スタジオで、

 悶々としてるより、

 こっちのほうが、

 よっぽど、健康的だ。

 いや、逆に、

 未だに、キャバクラ通いを、

 続けていること祈る。



 その後、彼を、一度も見かけない。




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